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中川結菜さん (8hk0l1ap)2022/10/28 19:21 (No.589180)削除
ミステリーの魅力が詰まった名作 −−アガサ・クリスティー[山本やよい訳]『オリエント急行の殺人』 (早川書房、2011年)評


 真冬の欧州を走る豪華列車オリエント急行には、国籍も身分もさまざまな乗客が乗り込んでいた。奇妙な雰囲気に包まれた車内で、老富豪が刺殺体で発見される。偶然乗り合わせた名探偵ポアロが調査に乗り出すが、すべての乗客には完璧なアリバイがあった。

 私はあまり本を読まないが、ミステリーが好きでたまに読む事があった。その中で最も読んだ回数の多いのがこの本だ。有名な話であるため、題名を耳にしたり、犯人を知っていたりという人も多いのではないだろうか。私も初めて読むときにはすでに犯人を知っている状態だった。しかし私は、この話は犯人ではなく殺人のトリックや動機、アリバイ工作が面白いと思った。どれも『オリエント急行の殺人』にしかできないものばかりだ。また列車を使ったアリバイ工作はよくあるが、列車内で事件が起こり列車内で推理するものは少ないだろう。
 舞台はオリエント急行の寝台列車であるため、乗客たちの部屋を把握しなければスムーズに読みにくいと感じる。私の所持しているこの本には列車内の部屋の配置図がある。私は配置がわからなくなる事が多いため、付箋を貼ってすぐに戻れるようにしている。配置図があることによって、話の理解度も上がると思う。
 内容は三部構成となっており、第一部 事実、第二部 証言、第三部 ポアロ、じっと座って考えるに分かれている。このように列車に乗る経緯から事件の発覚まで、証言をとる、推理をして解決というシンプルなものだが読んでいくと内容の濃いものになっていた。

 『オリエント急行の殺人』と言っても、翻訳の仕方によって異なる魅力があるだろう。いろいろな翻訳と見比べてみても面白いだろう。ぜひ、この本を読んでミステリーに触れてみてほしい。(767字)
栃山野乃花さん (8hlpmoie)2022/11/4 14:41削除
本のあらすじ以外の、中川さんがその本の魅力的な部分を書いてあるので興味を持ちやすい構成だと思いました。また、同じ本でも複数の訳本が存在していることからこの本が長い間愛されてるんだなと感じました。
さん (8i3wm1q9)2022/11/4 14:50削除
付箋を貼って読むやり方がまるで自分自身推理しているような感じがあって没入感がありますね。本自体が調査資料のようです。今まで名前は知っていても読んでいなかった本なので自分が探偵になった気持ちで読んでみたいです。
トトさん (8hlf0395)2022/11/4 22:58削除
ミステリーは何気ない一コマが後から重要になって、初めは気づかなくて後からなんだっけ…と私はよくなってしまいます。そこで自分なりの読み方も紹介していたことでその方法なら前の展開を忘れてしまっても悩むことなく読むことができそうだと思えました。(ポアロって名探偵コナンの安室さんが働いているカフェの名前ですよね?アガサ・クリスティの小説から来ていたのかーと発見がありました!)
リョウ・ヒョウヒョウ・ビンビンさん (8htw7uxs)2022/11/5 00:54削除
あまりにも有名な作品なので名前だけは知っていましたが、その内容までは知らなかったので読んでみたくなりました。特に「『オリエント急行の殺人』にしかできないトリックやアリバイ工作」という文を読んで、一体どんなトリックなのかめちゃくちゃ気になりました。読み手の興味をそそる、とても良い書評だなと思います。また、読みにくいポイントやこの作品の魅力などが明確に書かれていて、小説を読む時に参考になるなと思いました。
主食かぼちゃさん (8iiizdpv)2022/11/5 01:22削除
私もドラマか何かで見たことがあって犯人は知っているんですが、原作の方がもっと緻密に描かれているようで気になりました。個人的に、ミステリーの書評はネタバレに発展しそうで避けていたのですが、中川さんの書評は独自の読み方の紹介やおすすめの楽しみ方を書いていてくれて、「この本を読んでもらいたい」という気持ちが伝わってきました。
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菅原羽南さん (8iiizdpv)2022/10/31 20:27 (No.592150)削除
ほっと一息 小川糸「ライオンのおやつ」(ポプラ文庫 2022年)
 
男手ひとつで育ててくれた父の元を離れ、一人で暮らしていた雫はステージ5の癌が見つかり、半年の余命宣告を受ける。そこで雫は、人生の最期を海の見える穏やかな場所で迎えたいと願い、瀬戸内に浮かぶレモン島にあるホスピス、「ライオンの家」に移ることになる。そこでは、毎週日曜日の午後3時から「おやつの時間」というイベントが行われていた。入居者それぞれの人生の思い出のおやつを、思い出エピソードと共に味わうというものだ。読後は、おいしいおやつをゆっくりと堪能できた時のような気持ちで満たされる。思わず「ごちそうさま」と言いたくなってしまう作品だ。
 本書は、終末期とホスピスという命の終わりが決まっている場所が舞台なのにも関わらず、決して重くなく、人生の美しさと日常に隠れている些細な幸せを教えてくれるような、不思議な魅力を兼ね備えている。特に、「おいしいもの」の描写が秀逸だ。読んでいるだけなのに思わずお腹が鳴ってしまう。
 おやつの時間に私だったら何をリクエストするだろう。考えてみて、すっと思い付いたのが「白玉団子」だった。休日のおやつの定番として我が家でよく出ていた。お母さんの作った白玉はまんまるで綺麗なのに、私が作るのはなんだがぶきっちょで。出来上がったもちもちの白玉に抹茶アイスとつぶあんを乗せて、大きな一口でかぶりつく。この瞬間が地味ながらも幸せだったなと思い出した。
 ライオンの家でのおやつの時間では、豆花・カヌレ・アップルパイ・牡丹餅・ミルクレープなど多種多様なおやつが振る舞われる。それぞれのおやつに一人の人生が詰まっていて、食べるという行為を通して幸せを思い出すことができる。おやつは生きて行くためになくてもいい存在ではあるが、人生にちょっとした彩りを与えてくれるものだと思う。私は本書もおやつのようなものだと考える。なんだか疲れてしまった時、一息つきたい時、ぜひ本書に手を伸ばしてみてほしい。
(798字)
菅原羽南さん (8iiizdpv)2022/11/4 14:22削除
ほっと一息 小川糸『ライオンのおやつ』(ポプラ文庫 2022年)
栃山野乃花さん (8hlpmoie)2022/11/4 14:30削除
『ライオンのおやつ』は自分も読んだことがありました。しかし本の内容から発展して自分だったらおやつの時間に何を頼みたいか、紹介することによってこの文章を読んだ人に興味を持たせるとても良い紹介文だと思います。
カヌレさん (8hk1tkzn)2022/11/4 14:33削除
文体から小説のゆるやかな雰囲気が伝わってきました。飾らない言葉選びと、シーンを急展開的に説明していないところが、読む側に余裕を持たせてくれるように感じます。また、文中の『「ごちそうさま」と言いたくなってしまう作品だ。』というワードセンスがとてもささりました。
さん (8i3wm1q9)2022/11/4 14:34削除
読んだことのない本なのですが題名からもほんわかした温かみを感じる本ですね。割とドキドキハラハラな展開の物語を好んで読む傾向にあるので、このようなやさしい本を読んでほっと一息つきたいと思いました。
リョウ・ヒョウヒョウ・ビンビンさん (8htw7uxs)2022/11/5 00:49削除
作品の和やかな雰囲気が伝わってくる温かい文だなと思いました。繊細な表現も、まるで書評ではなく小説のようで、読んでいて楽しかったです。ほっこり系のお話はあまり馴染みがないので、まさにおやつを食べるように、ゆっくりとした時間を過ごしながら読んでみたいなと思いました。
返信
高梨壮汰さん (8hlne9f4)2022/10/30 21:30 (No.591274)削除
色で魅せる リチャード・メール 訳:平谷早苗 『色彩の学校』(ボーンデジタル 2013年
今回私がおすすめする本は「色彩の学校」という本です。この本は色彩論とデザイン原理を」探り表現するための50の入りの実験が記載されています。作者のリチャード・メールは学び=遊びと考え、創作に携わる人にとって「遊び」というのは創作の基本で独創的なアートやデザインは多少少なかれ遊びの産物であると考え、色彩実験を用いてデザインにおける可能性を探ろうとしていました。
 そもそも色の歴史とはどこから始まったのでしょうか。その歴史は旧石器時代の洞窟壁画まで遡り、古代エジプトでは色にそれぞれ意味もありました。また古代ギリシャでは色によって呼び起こされる感覚に基づいたカラーシステムを発表しました。このように私たち人間が言葉を話すよりも前から色というのは人間と密接な距離にあることがわかります。
 ここで1つだけ気に入っている実験を紹介したいと思います。補色対比の実験です。色を見ると、人間の目は無意識のうちにその色の補色を作り出します。ある色が対になる補色によってバランスされた均衡状態を探すわけです。これは「同時対比」として知られる生理的な現象で色彩論にとって最も重要な原理の一つです。そこで純色の正方形を用いて補色のグリッドコンポジションを作ります。赤と緑の補色のグリッドコンポジションは明確なビジュアルヒエラルキーのない、視覚的に安定したコンポジションになります。しかし黄と青、青と橙など、明度の高いコントラストが高い純色を組み合わせて作る補色対比のコンポジションは、各色をそれぞれの明度と一致する量だけ使用した場合に限り、バランスします。たとえば、最も明るい色である黄の純色と最も 低い明度の色である紫の純色を組み合わせる場合、ごく少量の黄色と大量の 紫とを組み合わせるとバランスします。 橙の純色の明るさは、 青の純色の約2 倍です。 この2色を使ってバランスのとれたコンポジションを作ろうと思えば、 青の正方形を、最低でも橙の2倍は使う必要があります。 黄色と紫、 または 青と橙を同量ずつ用いて作ったコンポジションでは黄と橙が、 それぞれ支配的 な役割を果たすことになります。(861文字)
リョウ・ヒョウヒョウ・ビンビンさん (8htw7uxs)2022/11/5 00:48削除
「色彩実験」や「学び=遊び」など、美術学生として興味をそそられる文が多くあり読んでみたくなりました。色の歴史も簡潔に振り返ってくれたので内容がスッと頭に入ってきていいなと思います。しかし、後半の実験紹介では、難しい単語が多すぎておバカな私には理解することができませんでした。もう少し単語に対する説明を入れたり、分かりやすい言葉に置き換えたりするといいかもと思います。また、なぜこの実験が気に入っているのかの理由も知りたいなと思いました。
返信
栃山野乃花さん (8hlpmoie)2022/11/4 11:17 (No.595965)削除
上橋菜穂子「獣の奏者」 (講談社 2006)

彼女は人間のエゴで生き物の命が歪められることを許さなかった。
「獣の奏者」。この物語は児童文学というジャンルに存在している。だが、決して子供向けのやさしい話ではない。人の営みの不条理さや暖かさを感じさせてくれる。
翼を持つ大きな獣。王獣。彼らは王家の権威の証として大切に飼われていた。しかし人に飼われた王獣は人に慣れず、飛ばず、まぐわうこともない。
一方、他国との戦で使われる闘蛇という獣がいた。彼らは人を乗せ戦う。エリンは闘蛇を育てる村で獣ノ医術師の母と暮らしていた。ある日、突然村の闘蛇が大量死してしまう。彼女の母はその責任を問われ処刑されてしまう。
孤児となったエリンは蜂飼いの男に拾われ共に過ごす。そんな日々の中、空を飛ぶ野生の王獣の姿を見て、王獣の医術師になることを決意する。しかし、人に飼われた王獣はただそこに存在しているだけの生を過ごしていた。彼らの姿に落胆するエリンだったが、傷を負った王獣の子「リラン」との出会いが彼女の人生を変える。エリンはリランを救いたいという一心で王獣を操る術を見つけてしまう。しかし、王獣は決して慣らしてはいけない獣だった。
大昔、王獣と共に暮らしその背に乗り自由に空を飛行する人々がいた。だが「ある出来事」が起こり彼らは山奥に隠れ住み獣を操る術を誰にも伝えようとしなくなった。その術をエリンは偶然見つけてしまったのだ。エリンは王獣を繁殖させることにも成功し、国の中で重要な人物になっていく。彼女は王獣に、野にあるように生きてほしいと願っただけだがその結果は徐々に国の根幹を揺るがしていく…
ファンタジー小説を敬遠する人もいると思うが、この小説はそんな人でも楽しめるはずだ。
王獣と闘蛇の存在は現実にはないものだが、ピンチの時に助けてくれる魔法のようなものは一切ない。エリンはどれだけ過酷な事があっても自身の力で解決していく、そこに生まれる人間同士のつながりや、エリンの信念を貫く生き方に私は励まされきた。
その時の年齢や読む人によって感じることが様々な物語だと思うので、ぜひ一度は読んでみてほしい。
栃山野乃花さん (8hlpmoie)2022/11/4 14:26削除
ありのままに生きることを諦めなかった人間の話  上橋菜穂子-『獣の奏者』(講談社 2006)

 彼女は人間のエゴで生き物の命が歪められることを許さなかった。
「獣の奏者」。この物語は児童文学というジャンルに存在している。だが、決して子供向けのやさしい話ではない。人の営みの不条理さや暖かさを感じさせてくれる。
翼を持つ大きな獣。王獣。彼らは王家の権威の証として大切に飼われていた。しかし人に飼われた王獣は人に慣れず、飛ばず、まぐわうこともない。
一方、他国との戦で使われる闘蛇という獣がいた。彼らは人を乗せ戦う。エリンは闘蛇を育てる村で獣ノ医術師の母と暮らしていた。ある日、突然村の闘蛇が大量死してしまう。彼女の母はその責任を問われ処刑されてしまう。
孤児となったエリンは蜂飼いの男に拾われ共に過ごす。そんな日々の中、空を飛ぶ野生の王獣の姿を見て、王獣の医術師になることを決意する。しかし、人に飼われた王獣はただそこに存在しているだけの生を過ごしていた。彼らの姿に落胆するエリンだったが、傷を負った王獣の子「リラン」との出会いが彼女の人生を変える。エリンはリランを救いたいという一心で王獣を操る術を見つけてしまう。しかし、王獣は決して慣らしてはいけない獣だった。
大昔、王獣と共に暮らしその背に乗り自由に空を飛行する人々がいた。だが「ある出来事」が起こり彼らは山奥に隠れ住み獣を操る術を誰にも伝えようとしなくなった。その術をエリンは偶然見つけてしまったのだ。エリンは王獣を繁殖させることにも成功し、国の中で重要な人物になっていく。彼女は王獣に、野にあるように生きてほしいと願っただけだがその結果は徐々に国の根幹を揺るがしていく…
ファンタジー小説を敬遠する人もいると思うが、この小説はそんな人でも楽しめるはずだ。
王獣と闘蛇の存在は現実にはないものだが、ピンチの時に助けてくれる魔法のようなものは一切ない。エリンはどれだけ過酷な事があっても自身の力で解決していく、そこに生まれる人間同士のつながりや、エリンの信念を貫く生き方に私は励まされきた。その時の年齢や読む人によって感じることが様々な物語だと思うので、ぜひ一度は読んでみてほしい。(865文字)
銀燭さん (8hjytxx7)2022/11/4 14:43削除
まず最初にとても懐かしい一冊があって目を惹かれ、読んでいて、アニメや全巻読破した記憶が蘇りました。地に足ついた生き様が魅力的で、深い物語で年齢や人によって感じることが様々だとかその通りで、ファンタジー小説が苦手な人向けにも一文書かれているのもいいなと思いました。
トトさん (8hlf0395)2022/11/4 15:53削除
小さい頃にアニメを見たり、小説を読んでエリンに憧れていたことを思い出しました!野に生きるいきものと人間に飼われるいきもの、そしてそれらと人間の関わり…今思い返すと私たちが暮らす現実と重なる部分があると感じました。あらすじと勧めたい部分がわかりやすく書かれていて改めて読み返したいと思いました。
低い城の男さん (8io52kyh)2022/11/4 18:56削除
あらすじの文章を見ているとその作品の雰囲気がかなり解像度の高い感じで想像できるくらいにとてもわかりやすく書いていて読んでいて面白かったです。
限界突破さん (8hmqoosw)2022/11/4 23:19削除
あらすじが分かりやすかったので、物語の雰囲気が想像できました。魔法などは使わず、エリン自身の力で解決していくというところが面白そうだなと思ったので、ぜひ読んで見たいと思いました。
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岩崎史也さん (8i3w1ebh)2022/11/4 11:02 (No.595943)削除
「反逆する芸術 アヴァンギャルド芸術論」

著:塚原史 出版;論創社 出版年度:2008/7/1 420ページ


太陽の塔、日本に住んで入れいれば1度はどこかで目にする機会のある作品だろう。2025年の大阪万博で、より多くの海外の目に触れ、さらに有名になっていくのではないか。1930年代から活躍していた芸術家「岡本太郎」が1970年代に手掛けた作品である。この他にも岡本太郎は最大にして最高傑作と呼ばれる「明日の神話」や彼が初めて製作した「傷ましき腕」など多くの作品を残しているが、この作品群にすべて共通して言えることは「前衛的」すぎることである。この前衛的「アヴァンギャルド」は現在の価値観でも「美術への叛逆」であり、かなり独創的な作品群である。私の紹介する「反逆する美学 アヴァンギャルド芸術論」ではパリ・ダダやブルトン、ピカソなど世界的に活躍した前衛芸術家を研究し、彼らが有名な作品を作った理由を著者の塚原氏の解釈を踏まえながら叙述している。その中でも、特に紹介したいのが岡本太郎である。私が岡本太郎に興味を持つきっかけになったのには「岡本太郎式特撮作品 TAROMAN」という今年の7月にNHKで放送された番組である。その番組の中では岡本太郎の多くの作品が「奇獣」とよばれる怪獣となり、彼が1969年、大阪万博の前に製作した「若い太陽の塔」を模した芸術の巨人「TAROMAN」と戦うという内容のものだ。(全10話と短いが岡本太郎イズムが存分に発揮されているので余裕があればぜひ見てほしい。)これがきっかけで岡本太郎、ひいてはアヴァンギャルド芸術とは何なのかを知りたくなりこの本を読んだ。この本では他の解釈よりも1歩踏み込んでおり、太陽の塔は岡本太郎の母、岡本かの子自信を表しており、1番上の太陽の部分の「黄金の仮面」は人体から切り離された首、原初、太陽であった女性を、赤い模様は流れ出た血を表している。一見唐突な解釈と思いがちだが太陽の塔は人間の進化を表現した作品のため、納得がいく。他にも、数々の前衛的な作品が独自の解釈によって紹介されているので、アヴァンギャルド芸術に興味がある方は是非読んでほしい。 (851)

椎名遥さん (8hjyfbyy)2022/11/4 15:14削除
最近、芸術のあり方について考える機会があったため、この「前衛的」だという言葉に惹かれた。型にはまらないような芸術や、今まで知らなかった形の芸術の存在を知ることができた。
メタキンさん (8hn35llv)2022/11/4 15:52削除
みんな一度はどこかで見たであろう太陽の塔、その太陽の塔に岡本太郎はどんな思いを込めたのか、岡本太郎はどう芸術と向き合っていたのか岡本太郎の作品とともに知れる本はどういうものなのか、自分も岡本太郎イズムについて知りたいと思いました。
トトさん (8hlf0395)2022/11/4 22:34削除
先日テレビをつけた際に偶然TAROMANが放送されているのを見ました。あの前衛的で好き嫌いが分かれそうな作品、芸術を芸術、デザインを学ぶ学生として、日本人としてもっと見てみたい、目の当たりにしてみたいと思えました。ぜひ読んでみたいです。
岩崎史也さん (8i3w1ebh)2022/11/4 23:16削除
「アヴァンギャルドな血と太陽は人である」

著:塚原史 「反逆する芸術 アヴァンギャルド芸術論」 出版;論創社 出版年度:2008/7/1


太陽の塔、日本に住んで入れいれば1度はどこかで目にする機会のある作品だろう。2025年の大阪万博で、より多くの海外の目に触れ、さらに有名になっていくのではないか。1930年代から活躍していた芸術家「岡本太郎」が1970年代に手掛けた作品である。この他にも岡本太郎は最大にして最高傑作と呼ばれる「明日の神話」や彼が初めて製作した「傷ましき腕」など多くの作品を残しているが、この作品群にすべて共通して言えることは「前衛的」すぎることである。この前衛的「アヴァンギャルド」は現在の価値観でも「美術への叛逆」であり、かなり独創的な作品群である。私の紹介する「反逆する美学 アヴァンギャルド芸術論」ではパリ・ダダやブルトン、ピカソなど世界的に活躍した前衛芸術家を研究し、彼らが有名な作品を作った理由を著者の塚原氏の解釈を踏まえながら叙述している。その中でも、特に紹介したいのが岡本太郎である。私が岡本太郎に興味を持つきっかけになったのには「岡本太郎式特撮作品 TAROMAN」という今年の7月にNHKで放送された番組である。その番組の中では岡本太郎の多くの作品が「奇獣」とよばれる怪獣となり、彼が1969年、大阪万博の前に製作した「若い太陽の塔」を模した芸術の巨人「TAROMAN」と戦うという内容のものだ。(全10話と短いが岡本太郎イズムが存分に発揮されているので余裕があればぜひ見てほしい。)これがきっかけで岡本太郎、ひいてはアヴァンギャルド芸術とは何なのかを知りたくなりこの本を読んだ。この本では他の解釈よりも1歩踏み込んでおり、太陽の塔は岡本太郎の母、岡本かの子自信を表しており、1番上の太陽の部分の「黄金の仮面」は人体から切り離された首、原初、太陽であった女性を、赤い模様は流れ出た血を表している。一見唐突な解釈と思いがちだが太陽の塔は人間の進化を表現した作品のため、納得がいく。他にも、数々の前衛的な作品が独自の解釈によって紹介されているので、アヴァンギャルド芸術に興味がある方は是非読んでほしい。 (851)
返信
国島麻帆さん (8hjytxx7)2022/11/3 20:59 (No.595357)削除
『そして遺骸が嘶くー死者たちの手紙ー』
 作者:酒場御行 
 出版:KADOKAWAメディアワークス文庫 2020年2月25日初版発行

 私が紹介するのは、『そして遺骸が嘶く-死者たちの手紙-』という小説です。
 紹介するにあたって、高校の頃、たまに本屋に行っては表紙やあらすじを眺めて一月に一冊くらい買って読んでいた頃が懐かしく思えました。
 この本は、主人公の狙撃兵キャスケットが手紙のような何かを携えてどこかを見ている表紙や、遺骸(ゆいがい)というタイトルから察せられる通り、さまざまな場所、人物へ遺書を届けるお話です。
 統合歴642年のクゼの丘に終戦した森鉄戦争から2年、ペリドット兵キャスケットは遺品返還部の一人として、兵士たちの最期の言伝を届ける任務を担っていました。
 遠方の工場で働くアルマンの「きょうだい」帰還者サリマン・キーガン、一級娼婦・金猫と出会った楽器者ノル・リセーニュ、変貌してしまったのはどちらなのか川の小石を拾った『ヴィーノ』の父『ピーター・レプリカ』。戦死した兵士たちの声を届ける任務。遺族たちに会うたびに思い返すのは、丘で死んだ戦友の言葉や、仲間や、部下や、妻子の姿でした。
『今日は何人打ち殺した、キャスケット』――兄官(=上司)の軍曹ベーゼに、毎日口癖のように聞かれる言葉や、食堂や酒場の主人の労いの言葉に、あの丘に置いてきた何かを胸の内に取り戻しながら、遺族へ遺骸を届けつつも文字が読めないキャスケットに、かつて戦時中に届いた故郷からの便り。当時、上官のベーゼが代読してくれたその内容を、子供たちと共に字を学び、やがて読むことができるようになった時、偽名で覆い隠した自身の本名の意味と過去の真実を知ることになるというストーリーです。
 いつかの未来、近しい人の死を乗り越えられることに焦がれながら、乗り越えられてしまうことに怯える。
『丘を越えて兵士たちは認識票や骨や手紙になって帰ってくる。控えめなノックと共に無に近い表情で事実を口にして――そして、遺骸が嘶く。』
 読み終わった後に訪れる、人一人の人生の莫大な情報量に圧倒されるような放心感のなんとも言えないひと息を、ぜひ味わってほしいと思います。
(本文840字)
国島麻帆さん (8hjytxx7)2022/11/4 14:17削除
死者と生者の記憶のかけら
作者:酒場御行
『そして遺骸が嘶くー死者たちの手紙ー』
 出版:KADOKAWAメディアワークス文庫 2020年2月25日初版発行

 私が紹介するのは、『そして遺骸が嘶く-死者たちの手紙-』という小説です。
 紹介するにあたって、高校の頃、たまに本屋に行っては表紙やあらすじを眺めて一月に一冊くらい買って読んでいた頃が懐かしく思えました。
 この本は、主人公の狙撃兵キャスケットが手紙のような何かを携えてどこかを見ている表紙や、遺骸(ゆいがい)というタイトルから察せられる通り、さまざまな場所、人物へ遺書を届けるお話です。
 統合歴642年のクゼの丘に終戦した森鉄戦争から2年、ペリドット兵キャスケットは遺品返還部の一人として、兵士たちの最期の言伝を届ける任務を担っていました。
 遠方の工場で働くアルマンの「きょうだい」帰還者サリマン・キーガン、一級娼婦・金猫と出会った楽器者ノル・リセーニュ、変貌してしまったのはどちらなのか川の小石を拾った「ヴィーノ」の父「ピーター・レプリカ」。戦死した兵士たちの声を届ける任務。遺族たちに会うたびに思い返すのは、丘で死んだ戦友の言葉や、仲間や、部下や、妻子の姿でした。
「今日は何人打ち殺した、キャスケット」――兄官(=上司)の軍曹ベーゼに、毎日口癖のように聞かれる言葉や、食堂や酒場の主人の労いの言葉に、あの丘に置いてきた何かを胸の内に取り戻しながら、遺族へ遺骸を届けつつも文字が読めないキャスケットに、かつて戦時中に届いた故郷からの便り。当時、上官のベーゼが代読してくれたその内容を、子供たちと共に字を学び、やがて読むことができるようになった時、偽名で覆い隠した自身の本名の意味と過去の真実を知ることになるというストーリーです。
 いつかの未来、近しい人の死を乗り越えられることに焦がれながら、乗り越えられてしまうことに怯える。
「丘を越えて兵士たちは認識票や骨や手紙になって帰ってくる。控えめなノックと共に無に近い表情で事実を口にして――そして、遺骸が嘶く。」
 読み終わった後に訪れる、人一人の人生の莫大な情報量に圧倒されるような放心感のなんとも言えないひと息を、ぜひ味わってほしいと思います。
メタキンさん (8hn35llv)2022/11/4 15:46削除
人の死、戦争、仲間、家族、これだけのメインになれるであろうメッセージが全てつながって構成されているすごい本だというのがわかりました。主人公一人の物語じゃない私たちにもいつか体験する近しい人の死、この本ではどう書くのか読みたくなった。
Y
YOFFYさん (8i3w1ebh)2022/11/4 22:58削除
1つ1つがそれだけで本を書けそうなテーマをうまくまとめ上げ、異世界であることをわかりやすく表現しているあらすじに興味がわいた
返信
大乘景さん (8htak834)2022/11/4 03:22 (No.595607)削除
[俺の残機を投下します] 作者:山田悠介 出版:株式会社河出書房新社 2020

 「残機」とは、ゲームにおいてあとどれだけコンテニューできるかを示す許容回数のことである。ゲームを嗜んでいる方には馴染み深い言葉だろう。
「残機」はゲームの中だけの話。そんな常識を覆したのは、世界一のプロゲーマーを目指すもなかなか成績が振るわずに腐り、落ちぶれた主人公「一輝」の前に突如現れた、「残機」と名乗る一輝によく似た顔の三人の男たちとの出会いだった。初めは不信感を露わにするが、残機として生まれてしまった者たちの悲惨な運命、築かれる友情、触れる家族の愛…と次々明かされる事実に、交差する切実な想いの数々。沢山の運命を背負った一輝が最後に辿る、命を、未来を賭けた究極の決断とその先にある結末とは如何に…といった内容である。
 現代でもeスポーツの普及が進むにつれ、プロゲーマーを志す若者が増えている。自分もゲームは好きだし、実際に活躍しているプロに憧れたこともあった。しかし、それだけではこの世は生きていけない。主人公のように、何もかもを捨てるまでしても、報われない人の方が格段に多い。夢を見るたびに踏み潰され腐っていく生々しさが、この小説では細かく描写されている。
 そんな成功した人間が持っているもの。努力はもちろん、技術、経験。ここまでは凡人でも頑張ればできなくもない。しかし、「最後まで諦めない」。これができる人間はおそらく限られてくるだろう。文字で見るなら至って簡潔。だからこそ、この世界は凡人で溢れている。
 最後とは、どこが最後なのだろう。目標を達成できたら?歳を取ったら?自分に出来ることが無くなったら?私はこの本を読んで、最後など無いのかもしれないと思った。最後まで諦めない、逆に言えば「諦めなければ“最後”という時は絶対に来ない」ということ。例え目標を達成しても、今の自分に出来ることが無くなっても、歳を取っても。自分以外の、いや自分を含め全てを捨ててでも。諦めずに夢を追い続ける「最後」を知らない人間だけが、ようやく成功者と呼ばれる。
自分に夢はまだない。ただ、こんな人間になりたいと思えた。(887)
大乘景さん (8htak834)2022/11/4 14:39削除
誰だって人生の主役 −−山田悠介『俺の残機を投下します』 (株式会社河出書房新社 2020年)

 「残機」とは、ゲームにおいてあとどれだけコンテニューできるかを示す許容回数のことである。ゲームを嗜んでいる方には馴染み深い言葉だろう。
「残機」はゲームの中だけの話。そんな常識を覆したのは、世界一のプロゲーマーを目指すもなかなか成績が振るわずに腐り、落ちぶれた主人公「一輝」の前に突如現れた、「残機」と名乗る一輝によく似た顔の三人の男たちとの出会いだった。初めは不信感を露わにするが、残機として生まれてしまった者たちの悲惨な運命、築かれる友情、触れる家族の愛…と次々明かされる事実に、交差する切実な想いの数々。沢山の運命を背負った一輝が最後に辿る、命を、未来を賭けた究極の決断とその先にある結末とは如何に…といった内容である。
 現代でもeスポーツの普及が進むにつれ、プロゲーマーを志す若者が増えている。自分もゲームは好きだし、実際に活躍しているプロに憧れたこともあった。しかし、それだけではこの世は生きていけない。主人公のように、何もかもを捨てるまでしても、報われない人の方が格段に多い。夢を見るたびに踏み潰され腐っていく生々しさが、この小説では細かく描写されている。
 そんな成功した人間が持っているもの。努力はもちろん、技術、経験。ここまでは凡人でも頑張ればできなくもない。しかし、「最後まで諦めない」。これができる人間はおそらく限られてくるだろう。文字で見るなら至って簡潔。だからこそ、この世界は凡人で溢れている。
 最後とは、どこが最後なのだろう。目標を達成できたら?歳を取ったら?自分に出来ることが無くなったら?私はこの本を読んで、最後など無いのかもしれないと思った。最後まで諦めない、逆に言えば「諦めなければ“最後”という時は絶対に来ない」ということ。例え目標を達成しても、今の自分に出来ることが無くなっても、歳を取っても。自分以外の、いや自分を含め全てを捨ててでも。諦めずに夢を追い続ける「最後」を知らない人間だけが、ようやく成功者と呼ばれるのかもしれない。
あなたには、その夢に全てを賭ける勇気があるだろうか。(860)
栃山野乃花さん (8hlpmoie)2022/11/4 14:57削除
本を読んで考えたことがしっかりまとめられているので、では自分が読んだら何を考えるのだろう。と本を読む気持ちが掻き立てられました。
さん (8hn4n92a)2022/11/4 14:59削除
ひとつひとつ丁寧に書かれている文章でとてもわかりやすかったです。最後とは何か、この文章を読んで考えたことをもっと深めたいと思ったので読んでみたいと思います。
メタキンさん (8hn35llv)2022/11/4 15:06削除
あらすじが簡潔に要点をまとめられていてどんな本なのか頭に入りやすかったです。
作者がこの本にどんなメッセージを込めたのか、自分はどうとらえたのかもまとめられていて、とても分かりやすかったです。
銀燭さん (8hjytxx7)2022/11/4 15:08削除
表紙買いしたことがあって懐かしかったです。三人の残機たちの生き様と過去の家族やさまざまな物事が絡み合って結末を迎えるストーリーがわかりやすく書いてあって記憶がよみがえりました。本の内容だけでなく、世間や現実と合わせて書いてあり、本に関しての興味をそそる文になっているのがとてもいいと思いました。
さん (8i3wm1q9)2022/11/4 15:11削除
夢見る少年少女に刺さりそうな話だなと思いました。残機を投下という言葉にすごく惹かれて、いままでこの本を見たことも聞いたこともなかったのですが、もし出会っていたらきっと即買いしていただろうなと思いました。本を読んでの感想も読みたくさせるエキスムンムンだなと思いました。面白そうな本に出合わせてくれてありがとうございます。
キアイ、デ、、サチオさん (8hnjjwr9)2022/11/4 15:12削除
物語の面白い要素が冒頭で上手くまとめられていることで、続きが気になりどんどん読み進めることができました。「残機」というゲームの一要素からの物語の発展具合が面白そうで作品にとても興味がわきました。
あかべこさん (8hjyqclq)2022/11/4 15:53削除
書き出しが「残機」という単語だったのでとても興味を惹かれた。内容が簡潔に纏まっていて、尚且つとても面白そうな話だと思えるため、文章の前半で文章に惹きつけられた。「諦めなければ“最後”という時は絶対に来ない」という言葉に心を動かされた。また、文章の終わりに問いかけが入っている所が良いと感じた。
低い城の男さん (8io52kyh)2022/11/4 18:53削除
最初にゲーム用語の説明がありとても親切な文章だと感じました。あらすじのまとめ方も綺麗にまとまっていて良いと僕は思いました。
Y
YOFFYさん (8i3w1ebh)2022/11/4 22:44削除
ゲーム業界だけではなく、すべての娯楽コンテンツ業界に通じる生生しさだと思って読めるほど現実味のある文章を引き出させる論評で1度手に取ってみたいと思いました。「最後」の定義について読んだ後自分も考えてみたいと思います。
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滝口克典さん (8ic60d24)2022/10/27 09:44 (No.587281)削除
「公共的役割」への理解 もっと――フィルムアート社=編『そして映画館はつづく』(フィルムアート社、2020年)評

 二〇二〇年は、新型コロナウィルス禍に席巻され、緊急事態宣言下でさまざまな人びとが苦境を強いられた一年間であった。たくさんの人びとが集まり、いっしょに何かをするような場所に大きな負荷がかかったが、本書は、そのなかでも特に映画館という場所に焦点をあて、この一年間の現場の奮闘を関係者の証言から明らかにしたレポートである。
 映画館といっても、郊外にチェーン展開する大規模なシネコンから、街中でひっそりと営まれる隠れ家的なミニシアターまでさまざまだが、本書が照準するのは後者だ。登場するのは、全国各地の映画館主や配給会社、上映関係者などで、それぞれの現場の来歴とそれを受けたこの一年間とが、当人たちの生の声で語られている。山形市からはフォーラム山形、同社で番組編成を担当する長澤綾さん(一九七九年生まれ)のインタビューが収録されている。彼女に限らず、登場する人びとの多くが団塊ジュニア以降の三〇~四〇代で、総じて映画館や上映の世界で世代交代が進んでいることが見てとれる。
 印象的だったのは、収録された語りの多くに通底する「映画館の公共性」という問題意識である。従来、営利目的の興行の場と位置づけられてきた映画館だが、実質的には、多様性や多文化を学べる社会教育的な施設、居場所のない人びとにそれを供給する場、さらにはまちづくりの拠点など、多彩な社会的役割を担っている。緊急事態宣言下で行われたクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」には三億円の支援金が集まったというから、その公共性は明らかだろう。
 しかし、各現場はこれまで、それぞれの自助努力においてそうした公共的な役割を担ってきたにすぎない。もちろんそれはとても素晴らしいことだし貴重なことだ。だが、果たしてそれを今後もミニシアター個々の自助に任せたままでよいのだろうか。映画館の公共性をきちんと位置づけ、公助で保障していくしくみが必要ではないか。コロナ禍は、そうした映画館という場所そのものをめぐる問いをも改めて浮き彫りにしたのである。(843字、『山形新聞』2021年3月31日掲載)
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滝口克典さん (8ic60d24)2022/10/27 09:43 (No.587275)削除
少年の成長描いた歴史物語 ――野上勝彦『始源の火 雲南夢幻』(彩流社、2020年)評

 中国の南西部、インドシナと境を接する山岳地帯が「雲南」で、点在する盆地にさまざまな少数民族が暮らしている。山間の僻地というイメージだが、実際には東西南北の交易路が交差する要衝で、古来より多彩な文明や文化がこの地に流れ込み、まじりあい、独特の多文化世界をつくりあげてきた。
 その多様性は19世紀半ばに一つの頂点に達する。当時の中国は清王朝の時代ゆえ、雲南の少数民族もまた満州人の統治下にある。一方、その帝国は、英仏の帝国主義や漢族の民衆反乱の挑戦にあっていた。前近代的な雑多さのうえに、近代のグローバル化がもたらした多様さがかぶせられていく時代である。
 本書は、そうしたユニークな歴史世界を舞台に、そこで自我を目覚めさせ、自分が何者かを模索していくある少年の日々を描いた教養小説(ビルドゥングスロマン)である。著者は、シェイクスピア研究が専門の英文学者(1946年生まれ)。少年時代に5年ほど山形市で暮らしたという。大学教員を退任後、作家に。本作は小説の第二作にあたる。
 なぜ、英文学者の選んだ題材が雲南の歴史物語なのだろう。巻末の膨大な参考文献表からは分厚い調査・取材のもとに構築された物語世界であることがわかるが、雲南史そのものが本書の主題なわけでは決してない。主題はむしろ、そこに現れていた多様性の世界にこそあるように、筆者には思われた。
 どういうことか。雲南の少数民族は、古くは漢族、次いで清朝に蹂躙され、それらに抵抗しつつ自らのアイデンティティを紡いできた。それに、少数民族といっても一枚岩ではない。内部に対立や葛藤もある。言語も宗教も思想も、彼らに一つのまとまりというよりは、複数性の種子を与えただけであった。
 要するにそれは、多様性を昂進させていく現代の比喩であろう。すると、そこで自らのアイデンティティを模索する主人公の少年というのは、複雑化する現代を生きる私たち自身の似姿ということになる。これからどう生きていくべきか。自身の生の指針に思いまどうすべての「少年たち」に贈られた教養小説である。(849字、『山形新聞』2020年8月26日掲載)
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滝口克典さん (8ic60d24)2022/10/27 09:42 (No.587267)削除
景観つくる過程 興味深く ――片山和俊・林寛治・住吉洋二『まちづくり解剖図鑑』(エクスナレッジ、2019年)評

 取材や調査で訪れるたび、落ち着きのあるオシャレな街並み、改めてゆっくり滞在し観光してみたいとぼんやり思っていた。山形県北端、秋田との県境に位置する山中の盆地にその街・金山町はある。その中心地区の統一感ある美しさは、景観まちづくりの先進的なとりくみを経てうみだされてきたものだ。
 金山町の景観まちづくりのエンジンとなっているのは「金山町住宅建築コンクール」と「風景と調和した街並み景観条例」という二つの政策である。前者によって、地場産材の金山杉を用いた地元の大工・職人の活動が活発化し、後者によって、金山住宅の統一感ある外観や美しい街並みがつくりだされる。これらを両輪に展開されてきたのが「街並み景観づくり100年運動」なのだった。
 本書は、そうした金山町のまちづくりの歴史と現在、そしてこれからを、計画に関わってきた三人の建築家が改めてふりかえり、その過程をわかりやすく開示したものだ(設計の意図やそこにある思想、参照した国内外の事例なども併せて紹介されている)。上記の「100年運動」開始は1984年で、もうすぐその折り返し地点。本書は運動の中間報告であるとともに、その中間総括でもある。
 興味深いのは、景観まちづくりのプロセスがどのように進んでいくものなのか、実際に関与してきた当事者たちが豊富なエピソードとともに明らかにしている点。史料的価値も大きい。例えば、最初のマスタープランが街の動き――スプロール[虫食い]化――に対抗すべく、途中で修正されつつ計画が進んでいった過程などが明らかになっている。街は荒ぶる生き物で、まちづくりはそれを飼いならしていく仕事でもあるのだということがわかっておもしろい。
 一方で、本書からはこの美しい街で暮らす人びとの多彩な声や生活の匂いがさほど感じられない。行政と建築家だけがまちづくりの担い手という時代ではもはやない。それは今後50年の課題と受け止めよ、ということだろうか。いずれにせよ、本書の続きは読者それぞれの手に委ねられている。(834字、『山形新聞』2020年2月19日掲載)
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